
「思い出には値段をつけられない」
約2,000本の万年筆を愛する
Thomasさんの物語
万年筆を好きになったきっかけや、初めて手にした一本、大切なペンにまつわる思い出。
万年筆の楽しみ方は、人によってさまざまです。
長く使い続けている一本がある方もいれば、色や書き心地に惹かれて、少しずつコレクションを増やしている方もいると思います。
そんな皆さまの万年筆との出会いや、大切な思い出をご紹介していく新しいコーナーを企画しました。
タイトルは、
「お客様と万年筆のストーリー」
記念すべき第1回は、&Liebeの商品を愛用してくださっている、アメリカにお住まいのThomas さんです。

Thomasさんが万年筆に興味を持ったのは、10代前半の頃。
カリグラフィーとの出会いがきっかけでした。
現在所有しているペンは、なんと約2,000本。
初めて手にしたペンから、奥さまに贈ってもらった思い出のモンブラン、毎日持ち歩いている日本の万年筆まで、一つひとつのペンに大切な物語があります。
今回は、Thomasさんに万年筆との出会いや、思い出の一本、普段の楽しみ方についてお話を伺いました。
1)万年筆に興味を持ったきっかけは何でしたか?
10代前半の頃にカリグラフィーに興味を持ったことが、万年筆に惹かれるきっかけでした。
当時は文字の輪郭を二重線で描き、その中の白い部分を塗りつぶすようにしていました。
でも、そうではなく、もっと自然に美しい文字を書きたいと思ったんです。
2)初めて手にした万年筆は何でしたか?
最初に持ったペンは、お下がりでもらったエスターブルックです。
透明なアクリル製の軸が付いたつけペンで、とても書き心地のよいペンでした。
その後、妻がパーカーのペンを2本買ってくれました。そして同じ年の後半に、初めてのペリカンを手にしました。
当時の私にとって、ペリカンは少し憧れの存在でした。
いつか使ってみたいと思っていた万年筆を、ようやく手にできた。
そのときの嬉しさは、今でも覚えています。
だからこそ、そのペリカンは今も大切な一本として使い続けています。

最近、吸入機構が壊れてしまい、修理に出すことになりました。
せっかくなので、この機会にペン先も金製のものへ交換してもらうことに。
すると、ペリカンの担当者から、
「交換するペン先のほうが、ペン本体よりも高価になります。それでもよろしいですか?」
と確認されたそうです。
それに対してThomasさんは、こう答えました。
「このペンに詰まった思い出には、値段をつけることができません」
修理を終えたペリカンは、再び美しく書ける状態となり、今もThomasさんの大切な一本として使われています。
&Liebe 清水:
とても素敵なお話ですね。
壊れても修理をしながら、大切な一本を使い続けていく。
「思い出には値段をつけられない」という言葉に、Thomasさんのペンへの愛情が伝わってきます。
3)現在、万年筆を何本くらい所有していますか?
現在、約2,000本のペンを所有しています。
初めて使う方向けのペンから、モンブラン、ペリカン、ヴィスコンティなどの限定モデルまで、幅広く集めています。
イタリアのヴェネツィアで購入した、特別な限定モデルのガラスペンも持っています。とても素晴らしいペンです。

&Liebe 清水:
約2,000本……!想像していた以上の本数で、本当に驚きました。
その日の気分で「今日はどれを使おうかな」と選ぶ時間も、きっと楽しいんでしょうね。
Thomasさんから送られた写真を見て、しばらく見惚れていました。

4)最も特別な思い入れのある万年筆はどれですか?
特別な意味を持つペンは、たくさんあります。
そのひとつが、妻から贈られたモンブランの限定モデル「作家シリーズ」です。

アメリカ詩協会から賞をいただいたときに、妻がプレゼントしてくれました。
ほかにも、フィレンツェで技術を学んでいた頃に、自分で削って作った羽根ペンがあります。
最近は、特にカリグラフィー用のペン先に関心があります。
なかでも、Dr. SHAK MDから購入した特殊な複合ペン先が気に入っています。

また、ペンショーでは、ペン先職人のJ.J. Laxを訪ねることが多いです。
彼が仕上げるカースイタリックのペン先も、とても気に入っています。
&Liebe 清水:
モンブランの「作家シリーズ」、素敵ですよね。
書く道具としてはもちろん、眺めているだけでも楽しめる。
私もいつかは手にしてみたい、憧れの万年筆です。
また、日本ではあまり耳にしないペン先職人やメーカーの名前も多く、どんなものなのか調べる時間まで楽しませていただきました。
5)ペンにまつわる特別な思い出はありますか?
以前、クリスマスの前日に、オーストリアのウィーンにあるアメリカ大使館での仕事に呼ばれたことがありました。
そのとき、妻が別のモンブランの限定モデルをプレゼントしてくれました。それからは、毎年新しい一本を贈ってもらうようになりました。
クリスマス直前に家を離れ、その後何か月も帰ることができなかった私にとって、そのペンは家族や故郷を思い出させてくれる、とても特別な存在でした。
&Liebe 清水:
ちょっと待ってください、素敵なご夫婦すぎます……!
離れて過ごす間も、その一本を見るたびに奥さまや家族のことを思い出せる。
ペンが大切な人との時間をつないでくれていたんですね。
6)最近よく使っている万年筆を教えてください
私は常に50本近くのペンにインクを入れておき、順番に使っています。
最近は、Gravitasのペンを数本と、Schon Dsgnの「MONOC EVO」を2本よく使っています。どちらのメーカーも、素晴らしい製品を作っています。

また、外出するときには、エボナイト製のペン芯を付けた「Pilot Custom Heritage 912 FA 10」と、「Pilot Custom 823 Rikka」を必ず持っていきます。

Rikkaは、日本で販売されたグリーン軸のモデルです。
この2本は、モンブランの2本差しペンケースに、ちょうどきれいに収まります。

7)普段、どのような場面で万年筆を使っていますか?
毎日使っています。
日記を書いたり、仕事のメモを取ったり、ときには手紙を書いたりしています。

デスクには、色も形もさまざまな万年筆がずらりと並んでいます。
その日の気分や、書く内容、使いたいインクに合わせて、この中から一本を選んでいます。
&Liebe 清水:
これは万年筆好きにはたまらないデスクですね……!
座らせて欲しいくらいです(笑)
並んだ万年筆を眺めながら、「今日はどれを使おうかな」と選ぶ。
その時間も、万年筆の楽しみのひとつですよね。
8)万年筆を使うことで、時間の過ごし方は変わりましたか?
もちろん変わりました。
ペンの状態を管理したり、洗浄したり、文字を書いたり、さまざまな書体を練習したりする時間が増えました。
ズッターリーン体、ゴシック体、フラクトゥール体、そしてさまざまな筆記体を練習しています。
9)万年筆のどのようなところに、最も魅力を感じますか?
万年筆で書くときに得られる、感覚的な心地よさです。
そして、頭の中に思い描いたあらゆる色を使って、自由に文字を書けることにも魅力を感じています。

&Liebe 清水:
万年筆で書く時間って心地よいですよね。
同じ万年筆でも、ペン先によって書き心地が違ったり、インクを替えるだけで文字の雰囲気が変わったり。
ただ文字を書くための道具ではなく、「書くこと」そのものを楽しませてくれるペンですよね。
10)Thomasさんにとって、万年筆とはどのような存在ですか?

万年筆は、言葉と色を使って、自分自身を自由に表現させてくれる存在です。
これまで、詩で何冊もの本を埋めてきました。

&Liebe 清水:
言葉と色で、自分を自由に表現する。
とても素敵ですね。
引退後、Thomasさんが万年筆と過ごす時間がさらに増え、これからもたくさんの詩が生まれていくのが楽しみです。
一本のペンに積み重なる時間

約2,000本ものペンを所有しているThomasさん。
その数にも驚きましたが、お話を伺って特に心に残ったのは、一本一本に大切な思い出があることでした。
初めて手にしたペン。
今も修理をしながら使い続けているペリカン。
奥さまから贈られたモンブラン。
遠く離れた場所で、家族や故郷を思い出させてくれた一本。
万年筆は、ただ文字を書くための道具ではありません。
使っていた場所や、一緒に過ごした人、そのときに書いた言葉まで、一本のペンには少しずつ時間が積み重なっていきます。

「このペンの思い出には、値段をつけることができません」
Thomasさんのこの言葉に、万年筆を長く大切に使うことの魅力が詰まっているように感じました。
Thomasさん、たくさんの素敵なお話を聞かせてくださり、本当にありがとうございました。