
10年以上、いつもそばに。
私を支えてくれた赤い万年筆
万年筆との出会い方は、人それぞれです。
憧れていた一本を迎えることもあれば、誰かのひと言がきっかけで、思いがけず使い始めることもあります。
今回お話を伺ったのは、10年以上にわたり、万年筆を大切に使い続けているYHさんです。
講義のノートや資格試験の勉強、日々のちょっとしたメモまで。
長い時間をともに過ごしてきた赤い万年筆は、今では数々の難所を一緒に乗り越えてきた「お守り」のような存在になっているといいます。
万年筆との出会いや思い出、普段愛用されているペンとインクについて、YHさんにお話を伺いました。
1)万年筆を好きになったきっかけを教えてください。
YHさん:
最初の一本を手に入れたのは、憧れていた万年筆があったからというより、成り行きに近いものでした。
使い始めてみると、力を入れなくてもすっと書ける心地よさや、ペン先の美しさに少しずつ惹かれていきました。
さらに、さまざまな色のインクを選び、その組み合わせを楽しめることも、万年筆ならではの魅力でした。
最初から夢中になったというよりも、使う時間を重ねるうちに、じわじわと好きになっていったように思います。
&Liebe清水:
「じわじわと好きになった」という感じ、すごくわかります。
最初は普通の筆記具として使っていたはずなのに、気づけば眺めたり、次に入れるインクを考えたりしますよね。
2)初めて手にした万年筆は、どんな一本でしたか?
YHさん:
初めての万年筆は、PILOTの「カスタム74 伊東屋限定レッド」、字幅はMです。

当時は万年筆についてほとんど知識がなく、「軸の赤色がきれい」という理由だけで選びました。
試し書きもせずに購入しましたが、書き心地が自分の手によく合い、その後10年以上使い続ける一本になりました。
今振り返ると、初めての一本でこれほど相性のよい万年筆に出会えたのは、とても幸運だったと思います。
&Liebe清水:
試し書きをせず、見た目だけで選んだ一本が、10年以上使い続ける相棒になるとは……本当にすごい出会いですね。
しかも、伊東屋限定の赤軸。今見ても、とてもきれいな色です。
最初の一本で大当たりを引いたのは、もはや運命だったのかもしれません。
3)現在、万年筆を何本くらいお持ちですか?
YHさん:
現在は、全部で10本ほど持っています。
PILOTの万年筆が多く、その中には、もともと祖父母が持っていた古い万年筆もあります。

新しく自分で選んだものだけでなく、家族が使っていたものを受け継ぎながら楽しめることも、長く使い続けられる万年筆の魅力だと感じています。
&Liebe清水:
祖父母さまが使われていた万年筆もあるんですね。
時代を越えて受け継ぎ、また誰かが使える。これは、使い捨てではない万年筆だからこそできることだと思います。
ご自身で選んだ一本とはまた違う、特別な思いがありそうですね。
4)その中で、特に思い入れのある一本を教えてください。
YHさん:
やはり、初めて手にしたPILOTの「カスタム74 伊東屋限定レッド」です。
現在持っている10本の中でも、今なお最もよく使っている一本です。
長い間使い続けてきたことで、自分の手になじんでいるだけでなく、この万年筆で書いてきた時間や思い出もたくさん積み重なっています。
&Liebe清水:
新しい万年筆が増えても、最初の一本が今でも一番よく使うペンなんですね。
10年以上使っていれば、もう相棒のような存在ですね。
5)その万年筆には、どんな思い出やエピソードがありますか?
YHさん:
10年以上前、手の疲れに悩んでいた私に、母が「万年筆を使うと手が楽だよ」と商品券をくれました。
当時は万年筆についてまったく知らず、なんと「軸が赤くてきれい」という理由だけで、カスタム74を選びました。
試し書きもせずに購入したのですが、結果的には自分の手にとてもよく合う一本でした。
初めての万年筆でこれほどの大当たりを引けたのは、とんでもなく運がよかったのだと思います。
ただ、その幸運に気づいたのは、使い始めてしばらく経ってからでした。
それ以来、講義のノートを取るときも、資格試験の勉強をするときも、日常の細々としたメモを書くときも、ほとんどこの万年筆を使ってきました。
これまでに書いてきた文字数は、相当なものだと思います。
初めての万年筆だったので、使い始めた頃には、曲がってしまったペン先を自分で直そうとするなど、今思えば恐ろしいこともしていました。
そんな無茶な扱いにも耐え、今も変わらず働いてくれていることを、本当にありがたく思っています。
これまで何度か修理にも出しましたが、現在では同じ色の修理用パーツが残っていません。
首軸にはヒビが入ってしまいましたが、違う色のパーツに交換してデザインが変わってしまうことが名残惜しく、今はそのまま大切に使っています。
10年以上経った今でも、最もよく手に取る万年筆です。

講義や資格試験など、これまでさまざまな難所を乗り越えるときに、いつもそばで支えてくれました。
私にとっては、単なる筆記具ではなく、お守りのような存在です。
&Liebe清水:
なんて素敵なお話なんでしょう。
10年以上前に迎えた一本を、講義のノートや資格試験の勉強、日々のメモに使い続けてきた。
途中で何度も修理を重ねながら、それでも今なお一番よく使う万年筆だということに、YHさんのこの一本への深い愛を感じます。
首軸にヒビが入っても、同じ赤色の部品がないため、姿が変わってしまうのが寂しくて交換できない。
きっとYHさんにとっては、傷やヒビも含めて、この万年筆と一緒に過ごしてきた時間そのものなんでしょうね。
数々の難所を一緒に乗り越えてきた、お守りのような万年筆。
一本の万年筆を、修理しながらこれほど長く大切に使い続けていることが、本当に素敵だと思いました。
6)最近よく使っている、お気に入りの万年筆とインクを教えてください。
YHさん:
最近よく使っているのは、次の3本です。

私の中では、それぞれが三色ボールペンでいう「黒・赤・青」のような役割になっています。

インク:KWZ IG グミベリー
初めて手にした万年筆であり、10年以上使い続けている一番思い入れのある一本です。
ずっと理想の紫色を探し続け、ようやく見つけたのが「IG グミベリー」でした。
ただ、最近は以前と少し色が変わったようにも感じています。
それでも、変わった後の色も気に入っており、今も楽しみながら使っています。


インク:KWZ メンソールグリーン
木の質感を楽しめるカスタム カエデには、メンソールグリーンを合わせています。
購入してから、オレンジオイルで汚れを落とし、時々キョンセームで磨いてきました。
使いながら手入れを続けているうちに、いつの間にか軸がつやつやになってきたことが嬉しいです。
3本それぞれに違った色と個性があり、書く内容やその日の気分に合わせて使い分けています。
&Liebe清水:
三色ボールペンの「黒・赤・青」のように、色や用途によって何本かを使い分けられるのも、万年筆ならではですよね。
ヴァイブラントオレンジにマンダリンという、軸とインクの組み合わせもたまりません。
一度は購入を見送ろうと思った限定色が、8年後まで残っていたというお話にも、特別な巡り合わせを感じます。
まるで、YHさんに迎えてもらうのを待っていたようですね。
そして、カスタム カエデを手入れしながら使い、少しずつ艶が出てきたというお話も素敵です。
インクの色を楽しむだけでなく、使いながら軸の変化を楽しめるところにも、万年筆を長く愛用する面白さがあるのだと思います。
理想の紫を探し続けて、ようやくIG グミベリーにたどり着いたというところには、インク沼の深さも感じました(笑)。
7) 万年筆は、普段どんなときに使っていますか?
YHさん:
落ち着いて書ける場所では、できるだけ万年筆を使っています。
アイデアを考えるときや、勉強会でノートを取るとき、手帳や日記を書くときなど、用途を限定せず、さまざまな場面で使っています。
特別なことを書くときだけではなく、日常のちょっとしたメモにも使う、身近な筆記具です。
職場では油性ボールペンしか使えないため、万年筆を使えないことを少し寂しく感じています。
&Liebe清水:
万年筆を使えるのが、落ち着いた場所に限られてしまうのは少し寂しいですね。
だからこそ、家で手帳や日記を開き、好きな万年筆でゆっくり書く時間が、より大切なものになっているのかもしれません。
アイデア出しから日常のメモまで、特別扱いしすぎず、普段の道具としてたくさん使われているんですね。
8)万年筆を使い始めてから、書くことや日々の過ごし方に変化はありましたか?
YHさん:
万年筆を使い始めたことで、筆記具にこだわりや愛着を持つ気持ちが、初めてよくわかるようになりました。
以前もさまざまなボールペンを試していましたが、自分の好みに合う書き心地にはなかなか出会えず、一本の筆記具を長く大切に使いたいと思うことも、それほどなかったように思います。
万年筆に出会ってからは、ペンの書き心地やデザイン、使っているインクにも自然と目が向くようになりました。
また、自分の万年筆だけでなく、ほかの方がどのような筆記具を愛用しているのかにも興味を持つようになりました。
それぞれの方が一本のペンを選んだ理由や、長く使い続けている背景を知ることも、今では楽しみのひとつです。
&Liebe清水:
自分が一本のペンを好きになると、ほかの方が大切にしているペンにも興味が湧いてきますよね。
「なぜその一本を選んだのか」「どんなときに使っているのか」を知ると、同じ万年筆でも、その人だけの特別な一本に見えてきます。
僕自身、そうしたお話をもっと聞きたくて、この「万年筆との物語」を始めたので共感します。
9)万年筆のどんなところに、一番魅力を感じますか?
お客様:
一番の魅力は、長く手元に置いて愛用できることです。
インクを入れながら繰り返し使うことができ、修理や手入れをしながら、一本のペンと長い時間を過ごせます。
使うほどに思い出が重なり、自分にとってかけがえのない一本になっていくところに、万年筆ならではの魅力を感じています。
&Liebe清水:
本当にそのとおりだと思います。
最初はきれいな一本の万年筆でも、長く使ううちに小さな傷がつき、自分の手になじみ、たくさんの思い出が重なっていく。
新品のときとは違う、自分だけの一本になっていくことが、万年筆の大きな魅力ですよね。
10)最後にあなたにとって、万年筆とはどんな存在ですか?
YHさん:
人生で大切なもののひとつです。
ただ文字を書くための道具ではなく、これまで過ごしてきた時間や、乗り越えてきた出来事を思い出させてくれる存在でもあります。
これからも手元に置き、長く大切に使い続けていきたいと思っています。
清水:
「人生で大切なもののひとつ」。
10年以上前に出会い、講義や資格試験、何気ない日々のメモまで、いつもそばで支えてくれた赤いカスタム74。
修理を重ね、傷やヒビが増えても大切に使い続けることで、その一本はいつしか、かけがえのない存在になっていくのだと思います。
今回YHさんのお話を伺い、万年筆はただ文字を書くための筆記具ではなく、使った人の時間や思い出が少しずつ積み重なっていくものなのだと、改めて感じました。
これからも、この赤い万年筆がYHさんのそばで、新しい時間をともに重ねていくことを願っています。
YHさん、大切な万年筆との物語を聞かせていただき、本当にありがとうございました。